権利能力

権利能力とは、「私法上の権利義務の主体となることのできる資格」のことです。

これだけではわかりにくいと思うので、権利能力が否定される例を考えてみましょう。

(例)Aが飼っている犬に、自分の財産を相続させるために遺書を書いた。

なんとなく犬に財産を相続させることはできない気がしますよね。
実際にその通りで、犬には財産を相続する権利というものがありません。

ここで最初の定義に戻ってみましょう。
私法というのはひとまず民法のことだと考えてください。
相続に関しては民法で規定されていますが、犬にはその民法上の権利がありません。
したがって、犬には権利能力がないということになります。

権利能力があるのは「人(自然人)」と「法人」に限られます。
法人は特別に作られた制度ですので、ここでは自然人で考えましょう。
人は生まれてから死ぬまでの間、権利能力を持つことになります。
そして、人であれば誰でも平等に権利能力が与えられます。当たり前のように感じるかもしれませんが、奴隷制度のように、かつては権利能力のない人も存在しました。

生まれた瞬間から権利能力を取得するので、乳幼児であっても権利能力があることになります。
逆に、意識がなく寝たきりの状態になっていてる高齢者であっても、生きているうちは当然に権利能力があります。
これが原則です。

ただ、これだと不都合が出てくる場合があります。
母親が妊娠しているとき(胎児の状態)です。

例えば、妻が妊娠中に夫のAが不慮の事故で亡くなったとしましょう。
出産していれば、子供もAの財産を相続することができます。

しかし、胎児には権利能力がないので、Aの財産を相続することはできません。
このように、出産する前後で大きく結論が異なってしまうのは問題があります。
現代ではほとんどの場合無事に生まれてくることからも、出産の前後で結論が変わるのはよくありません。

そこで、次の3つの場合には胎児を「生まれたものとみなす」ことにしました。

1 相続
2 胎児自身の損害賠償請求権
3 胎児への遺贈

つまり、この3つの場合に限り、胎児にも権利能力があることになります。

 

意思能力と行為能力

1 意義

まずは意思能力・行為能力とはどういうものなのかをまとめておきます。
意義というと堅苦しいイメージですが、法律用語の解説くらいの意味です。

意思能力・・・自分がする法律行為の結果を認識し判断することができる能力
行為能力・・・単独で有効な法律行為を行うことができる能力

テキストにはこのように書かれていることが多いです。
とはいえ、なんのこっちゃ状態だと思いますので、説明していきます。

2 意思能力

権利能力は生きている人はみんな持っている能力でした。
しかし、売買のような法律行為はある程度の能力を持っていないとできません。
この法律行為をするための最低限の能力のことを意思能力と考えるとわかりやすいです。

2歳の男の子が父親と車の販売店に行き、販売員に「この車が欲しい」と言ったとしましょう。販売員が「いいよ」と言ったら車の売買契約が成立するのでしょうか?どう考えても、2歳児には車を買うという行為(法律行為)を認識する力がありません。
つまり、意思能力がないのです。

意思能力がない状態で行った法律行為は無効です。

2歳児がした車の売買契約は無効ということになるのです。
ちなみに、年齢の判断は取引内容に応じて個別具体的に判断されます。
乳幼児はもちろんのこと、酩酊状態にある者(相当に酔っ払っている人)や認知症患者、意識を失った者も意思能力がありません。

ところが、意思能力がなかったことを証明するのはかなり難しかったりします。
個別具体的に判断されるものなので、ぱっと見で意思能力があるかないかを判断することは困難です。
これは、法律行為の相手方(売買であれば売主側)からすると怖くて仕方ありません。
もしかすると無効になってしまうかも・・・
そんな状態では売ってくれるものも売ってくれなくなります。

そこで、意思能力とは別の「行為能力」という制度があるわけです。

 3 行為能力

行為能力は、しっかりと1人で判断して有効に法律行為をすることができる能力と言い換えることができます。この能力を持たない人は何かしらの保護が必要になってきます。
その保護する制度が「制限行為能力者」というものです。

行為能力が制限される者をあらかじめ決めておくことで、相手方は意思能力を持っているかどうかの判断をしなくてよくなります。
売主側からすれば、相手が制限行為能力者に当てはまるかどうかだけ考えて取引できますし、買主側も自分の財産などを危なくする法律行為をしなくて済みます。

2歳児の車購入の例に戻ってみましょう。
この場合、意思能力がないということで無効となるわけですが、未成年者(制限行為能力者のひとつ)というくくりで法律行為を制限することができます。

一方で、17歳がバイクを買う場合はどうでしょうか。
この場合はぱっと見で意思能力がないとは言えません。(そもそもバイクを購入するという意味を知っているので意思能力はあると考えられます。)

それでも大きな買い物に関しては少し未熟な部分があるともいえます。
そこで、ここでも未成年者というくくりで保護しているわけです。

詳しくは制限行為能力者の部分で触れますが、制限行為能力者がした法律行為の保護は「無効」ではなく「取消し」です。

取消しは無効とは違い、一旦は有効に成立します。
意思能力がない者の保護よりゆるめの解決をはかっているのです。

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